Don't hold back!

自分の家とは異なる住空間にはワクワクさせられます。地面に書いたままごと用の家、リカちゃんハウス、ロールプレイングゲームの中の家、住宅展示場など、想像力を働かせてその空間での暮らしを思い描いた経験があるでしょう。ところが、それが現実に「自宅の新築・改築」としてシビアに考えなければならなくなったとたん、脳天気にワクワクしている場合ではなくなってしまいます。
以前両親が実家を立て直したときも、図面の段階で想像して決めなければいけないことが多すぎて、母が毎晩遅くまで、この部屋は和室でいいのか、壁紙はどうしようかと、頭を悩ませていました。図面の段階ではすっかり母まかせだった父は、家の骨組みができて空間が実感できるようになってからようやく、毎晩職人さんたちが帰った後、懐中電灯で足下を照らしながら、その空間を丹念に検証していました。そのときに「やっぱりああすれば良かった」と思っても、工務店に申し訳なくて言い出せなかった部分がずいぶんあったようです。
あのときこのソフト、ウォークインホームがあったら、人一倍遠慮がちな両親も、シミュレーションをしてもらいながら空間をしっかり把握して決めることができたかもしれません。以前触らせてもらったある建築シミュレーションソフトは、階段が天井を突き抜けたり、歩き回ろうとすると2階から急に1階に転落したり、操作だけで疲れ果ててしまった経験があるだけに、このソフトの作業スピードと操作性は感動的です。相手が時間をかけて準備をしてくれればくれるほど、NOと言いづらくなるし、準備をした側も直したくなくなるのはどんな業界でも共通でしょう。このソフトは、そんな双方の気遣いやストレスも軽減してくれそうです。
つい私たちも審査そっちのけで、目の前にどんどんできあがっていく新しい空間の中を楽しんでしまいました。これぞ、子供の頃にワクワクした感覚だったように思います。同様の製品は他にもあると思いますが、家づくりに関わる様々な立場の人の視点を大切に今後も発展して頂きたいと感じたソフトです。

佐々木 千穂 Chiho Sasaki
インタラクション、ヒューマンファクターズ スペシャリスト
有限会社インフィールドデザイン/代表
株式会社GKグラフィックス勤務を経て、イリノイ工科大学インスティテュート・オブ・デザイン修士課程において、ヒューマンセンダード・コミュニケーション・デザインを専攻。
1999〜2004年IDEO JAPAN勤務。以降ヒューマン・ファクターズ・スペシャリストとして・医療機器やユーザーインターフェース、コミュニケーションツールなどのデザインを行っている。

阪急コミュニケーションズ発行
「私の選んだ一品 グッドデザイン賞審査委員コメント集5 犬ノ巻」より

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